体力だけじゃない 農家には学力も必要
野球大会で秋田県の農業高校が活躍し、注目を浴びています。
彼らが農作業によって鍛えられていたということも考えられますが、農業学校の魅力はそれだけではありません。
農業に関する知識をつけたり、研究をしたりする場でもあります。
農業が高度化していく現代、自分で知識を蓄え、自分で考える農業従事者が求められています。
農家に求められる知識・思考力・技術力
農業は手順だけを覚えればよいわけではありません。
家畜にエサをあげたり、畑に肥料をまいたりすることだけが農家の仕事だけではないのです。
病気や肥料・飼料に関する知識も必要ですし、問題を解決できる思考力も求められます。
最近は、企業で経営する農家も増えていて、マネジメント能力が求められる場面もあるでしょう。
そういう意味では、農業は体力を使う単純労働とは区別されるべきものであるといえます。
情報技術(IT)の導入
それに加えて、技術を取り入れることも必要です。
人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などの最新技術の活用も始まっており、体力があるだけでは生きていけない時代にさしかかっています。
おいしい野菜や肉を作るには、知力や技術力も必要なのです。
×畑でこき使われる
◯知力や技術力が大切
農業学校出身の有名人も
農業学校出身の偉人をご存知でしょうか?
新渡戸稲造や内村鑑三も、札幌農学校(現在の北海道大学)という農業学校の出身です。
農業学校とは言っても、札幌農学校が扱う学問は多岐にわたりました。
明治時代、当時の北海道を指揮するリーダーを育成するという目的もあったようです*1。
これは今で言うリベラルアーツ教育のようなものだと思います。
内村によると、卒業式には、学生が農学と他の学問を絡めた演説をしていたそうです*2。
農学は、物理学や哲学と肩を並べる学問なのです。
いずれにしても、意外と古くから、農家には考えることが求められています。
新渡戸稲造や内村鑑三は農業を学ぶとともに、今でいうリベラルアーツ教育を受けていました。
農業大学は作物・家畜以外についても学ぶ
現代の農業大学や農学科でも、学問を横断した内容が見られます。
農学が主に扱うのは農作物の栽培についてですが、バイオテクノロジーやマーケティング(販売戦略)についても研究するそうです*3。
畜産学も家畜の生態だけでなく、生命倫理やペットのあり方など、動物全般を扱います*4。
もちろん、畑や牛に触れる実習も大切です。
しかし、よい農学者・畜産学者になるためには、学問の分野に囚われない幅広い知識と思考力が求められます。
研究者になっても、一般企業に就職しても、その知力は役に立つことでしょう。
農業大学は農業に関連することを、分野を横断して学ぶ場所です。
農業高校は生産以外にも対応
農業大学に比べると、実技の多いイメージがある農業高校。
でも、現在の農業高校は農業にとらわれない幅広い内容を扱っています。
従来通りに作物や畜産を扱う一方で、お菓子作りやペットトリマーといった農家とはかけ離れた実技も行われているようです*5。
もちろん、農業科であることをやめたわけではありません。
農業や畜産を扱う中で、新しい技能や知識が求められるようになってきたのです。
従来の農家のイメージとは違いますが、根本にあるものは同じです。
農業高校では、農業から派生した新たな実技科目も増えてきています。
職業訓練ではない 自由に学ぶため
高校や大学はあくまで自由に学ぶ場所です。
農業大学に入ったから農家にならなければならないとか、栽培や畜産以外の実習をしてはいけないということはありません。
必修科目をとった上で、自分の気の向くままに、農業を学べばよいのです。
ぜひ、自由に学ぶために大学に入ってください。
*1:草原克豪「第一章「我、太平洋の橋とならん」」『新渡戸稲造はなぜ『武士道』を書いたのか 愛国心と国際心』(電子書籍版)、PHP新書、2017年、22ページ。
新渡戸稲造はなぜ『武士道』を書いたのか | 草原克豪著 | 書籍 | PHP研究所
*2:内村鑑三、河野純治・訳「第3章 始めの教会」『ぼくはいかにしてキリスト教徒になったか』(電子書籍版)、光文社古典新訳文庫、2015年、63ページ。
ぼくはいかにしてキリスト教徒になったか 内村鑑三、河野純治/訳 | 古典新訳文庫 | 光文社
*3:参考:
*4:参考: